「裕也の血が入ってるので」内田舞×内田也哉子 「カッとなる瞬間」に大切なこと

『BLANK PAGE 空っぽを満たす旅』や『ペーパームービー』など、エッセイスト・絵本翻訳家・ナレーター等々多彩な才能で活躍する内田也哉子さん。そして、ハーバード大学医学部の准教授で『ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る』や『小児精神科医で3児の母が伝える 子育てで悩んだ時に親が大切にしたいこと 』の著者であり、小児精神科医の内田舞さん。

年齢も仕事も異なる二人ですが、内田姓以外にも、幼い頃から海外生活を繰り返し、3人の子どもの母親であることなど……、重なる部分が多いことを2024年に真宗大谷派名古屋別院が企画したYouTube『人生講座』の対談で出会ってから互いに感じたといいます。

そんなお二人にとっても大きな出会いとなった『人生講座』の対談を全5回×前後編で記事化。第4回目の今回は、子育てや仕事の場面で、うまくできないこと、イラっとしてしまったときにどうやってそこから脱するか。也哉子さんや舞さんの経験とともに「心を守るスキル(技術)」についてお伝えします。

※お二人とも姓が「内田」さんなので、以下より、下のお名前で表記させていただきます。

母から教わった「一人でいることの醍醐味」

内田也哉子(以下、也哉子):私は友だちと「フィットイン(馴染む・溶け込む)したい」「仲間になりたい」と思いながら、なかなか輪に入れないタイプでした。でも、そういったときに母(樹木希林さん)がよく言っていたのは、「自分と仲良くしなさい」ということでした。

「もっと一人でいることをおもしろがって。人とつるみたいっていう気持ちはあるけれども、一人でいることの醍醐味を、手を変え、品を変え自分をおもしろがらせる術を身につけなさい」って。

とても難しいと思ったのですが、「たとえば本を読むことでもいいし、絵を描くことでもいい」と。「そういうふうに自分が自分をおもしろがらせることが得意になると、気がついたら、あれ? って。周りの人が『何をやっているの?』と覗き込むようになるよ」って言われて。さみしい時期もあったけれども、コツコツそうやって人と交わっていきました。

母から教わった「一人でいることの醍醐味」, ユーモアをいつもポケットにしのばせて, 心を守るスキルは実は難しくない, 「再評価」が出来るとイライラが少なくなる

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内田舞(以下、舞):「自分を楽しませなさい」「自分をおもしろがらせなさい」、とても素敵な考え方だと思いますね。

ユーモアをいつもポケットにしのばせて

:ちょっと話が逸れるかもしれないのですが……いいですか? この也哉子さんとの対談が始まる前に、柏餅をいただきましたよね。柏の葉に包まれていて、海外生活が長くなってしまった私は、どうやって食べるかすっかり忘れてしまって、葉っぱごと食べちゃったんですね。「これ、結構硬い葉っぱだな」って思いながら食べて、茎の部分はすごい繊維質だったので、喉につっかえて、ゲホゲホって、すごい勢いでむせちゃったんです(笑)。

母から教わった「一人でいることの醍醐味」, ユーモアをいつもポケットにしのばせて, 心を守るスキルは実は難しくない, 「再評価」が出来るとイライラが少なくなる

桜餅は葉っぱを食べたりするし… Photo by iStock

也哉子:気が付かないで、すみません。

:いえいえ、大丈夫です(笑)。硬いけどいけるかなって思ったのですが、ゲホゲホしちゃって。実はまだ少し喉の奥が完全に回復してないんですよ(笑)。

也哉子:相当いろんなお話していただいたのに。すみません、おつらいですね……(笑)

:いえいえ。すごい咳き込んで、涙も出てきて、鼻も詰まっていて、話しづらいな、普通の私の声じゃないんだけどなって思いながらお話ししていて(笑)。今、也哉子さんと樹木希林さんとのお話を伺っていたら、ふと柏餅を詰まらせたことを思い出してしまって、自分のことを笑わずにはいられず、心の中で大爆笑していました(笑)。

也哉子:自分で自分を笑える、ユーモアセンスが……(笑)。

:でも、真面目なお話をしているときに、うっかり思い出してクスクスって笑っちゃったら恥ずかしいなって思っていて。今カミングアウトできてうれしいです。そして、也哉子さんには、私がこんな状況だって、わからなかったわけですよね。これって、他人が考えていることって、結局わからない、という例でもあるって思いませんか(笑)。

也哉子:そこにつながるわけですね(笑)

:もしかしたら也哉子さんも私とお話しながら、実は違うことを考えている瞬間もあったかもしれないとか、実は柏餅の葉っぱ食べるの?って、笑っていたかもしれないって(笑)。

也哉子:今言われて、笑い涙が出てきました。もう可愛らしくて(笑)。

舞さんもそうだし、私の母もたくさんのユーモアをいつもポケットに忍ばせている人だったんですよ。母はユーモアの方が多すぎて、もうやめてって言いたくなるぐらいだったんですけど。でも、近くで見たら悲劇なことでもちょっと引いて見たら実はとてもおもしろいということとか、物事をいかに多角的に見るかということでもあると思うんですね。なかなか難しいけれども、そういった見方の柔軟性は大事ですね。

母から教わった「一人でいることの醍醐味」, ユーモアをいつもポケットにしのばせて, 心を守るスキルは実は難しくない, 「再評価」が出来るとイライラが少なくなる

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心を守るスキルは実は難しくない

:それは、「心を守るスキル(技術)」になると思います。心理学では、「再評価」というスキルのようなものがあります。再評価が脳の機能としてどのように行われているのか、これは私の研究テーマのひとつでもあります。

再評価というのは、也哉子さんがおっしゃったように、一回ちょっと立ち止まって今の状況や感じていること、考えていることを少し客観的に見てみる、ということです。特に、感情が先行して何かを感じているとき、本当にこの感情は自分にとって必要あるのか、もしかしたらすごくネガティブに感じているけれども、ポジティブな点もあるのではないかということを考えるプロセスのことを言います。最初の評価のほとんどは「感情」なんです。物事をこれは好ましいもの、好ましくないもの、みたいなものを勝手に判断するというか。

也哉子:センサーみたいなものですか?

: 例えば、これは実際にあったエピソードですが、子どもたちが片付けをしなかったとき、「片付けなさい」と私が言ったのに遊び続けていてまったく片付けない。子育てあるあるですよね(笑)。そのときは、2段ベッドがあって、その2段目のベッドからスロープを作って、段ボールでそこに発泡スチロールを切ったものを障害的に付けて、上から車を転がしてどれが先に行くかみたいなものをやっていたんですね。

也哉子:高度な遊びですね(笑)

:でも、発泡スチロールをカットすると白いクズがパラパラと部屋中に散らばってしまったんです。素晴らしいものを作ったけれども、部屋にゴミが残るのはよくないので「お願いだから片付けてね」と何回も言ったのに、全然片付けないでずっとコロコロゲームしているんですよ。寝る時間も迫ってきて、さすがに私もイライラして怒鳴りそうになったんですね。あ、私も怒鳴っちゃうこともあるのですが、「あ、これ再評価だ! 再評価するタイミングだ!」と思ったんです。

母から教わった「一人でいることの醍醐味」, ユーモアをいつもポケットにしのばせて, 心を守るスキルは実は難しくない, 「再評価」が出来るとイライラが少なくなる

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也哉子:再評価についてもう少し具体的に教えてていただけますか?

:英語だと、再評価は「Reappraisal(リアプレイザル)」といいます。やり方としては、「Reapraise(再評価する:リアプレイズ)」と口に出して言って、少し大きく深呼吸をして、「今、私は何を感じているのか」と今の状況を観察してみるわけです。「私は怒っている」「怒りを感じている」……。とにかく今の状況について俯瞰でみた形であげてみます。

次に、「何で怒りを感じているのか」を客観的に見てみます。事象としては、「子どもたちに片付けなさいと言っても、片付けないということ」ですが、それに付随する考えって何だろう? と探ってみます。このときの私の場合は「私の言ったことを聞かない」「何回言っても聞かないっていうのは、子どもたちが私に対してリスペクトを持っていないからなんじゃないか」と感じたんです。つまり子どもたちに「なめられている」と感じて、私は高圧的になり、「なめられることを許さない」と、怒鳴るかもしれない状況に至っていたわけです。

こうやって再評価して、立ち止まり考えてみると、子どもたちは私に敬意を示していないから片付けていないわけではないことが見えてきます。今遊んでいることがとても楽しくて、このコロコロゲームをやり続けたいだけであって、さらに片付けるのってメチャかったるいだけなんですよね。私に対する敬意うんぬんなんて子どもたちは微塵も思っていないわけです。

也哉子:切り離したわけですね。

「再評価」が出来るとイライラが少なくなる

:そうなんです。すると、急に視界が開けてきて、私の怒りもシューッと落ち着いていきました。「あ、これ違うわ」って。そして、私の最初の目的はどういうことだったのか、もう一度再評価してみようと思うと、「なんだっけ?」となるわけです。「私の言うことを聞かせたい」「私にリスペクトを持たせたい」が目的ではなく、「片付けをしてもらうこと」が目的だったところに立ち返れて。だったら、それを達成するためには、怒りではなく、何をやったらいいんだろうと、考え直すことができたんです。

そして、「片付け競争します! 今からママに勝てるかどうか勝負です。真剣勝負、よーいドン!」って感じで、発泡スチロールの粉々を集め始めたら、子どもたちもママに勝たなきゃと、すぐに片付いたんですよ。

これはうまくいった例です。我が家ずっとこんな感じじゃないですよ、全然こんな感じじゃない。実際には再評価しようと思っても、失敗例のほうが多いです。2年前の成功をいまだに私の母親の栄光として語っているのですから(笑)。

也哉子:今のエピソードは、舞先生の著書にも書かれていますよね。本当に素晴らしいエピソードですよね!

:それが「再評価」のプロセスであって、でも大切なことではあるんですよね。いつもできるわけではないし、再度評価した結果、ここはやっぱり怒るところだわって、思うこともありますし。

也哉子:そういう場合もあるんですね

ネガティブなものをポジティブに変えることを「再評価」と思っている方がいますが、そうではありません。「考え直す」ということだけであって、その結果、やっぱり怒ろうとか、やっぱりここは悲しくて当然だから泣く、ということもあります。

でも、一回立ち止まって感情に先行されることをひとつひとつ紐解いていく努力は、やってみると自分についての発見もあるかもしれないし、自分の心を守るスキルになると思います。さらに、人を無闇に攻撃することを阻止することできるので、社会と関わる上でも大切なプロセスだと思います。

也哉子:これは、お母さんのためだけのスキルじゃないですよね。どんな場面でも「再評価」っていうのは必要ですね。私も父・裕也の血が入っているので、カッとなる瞬間が、もう子育てしてるといっぱいあるんですよ。そういうときは、まず深呼吸ですか?

:深呼吸ですね、「Reapraise(再評価する)」って言って。

也哉子:呪文のように、ですね。

:そんな感じです。あとは感情が湧いたときに、それをまずキャッチすることです。感情が、ワッと湧いたら、「今湧いた」「私の頭の中で、心の中で大切なことが起きている。それを一回考えてみよう」という感じです。

也哉子:やっぱり一間空けると見えてくるものがあるということですね。精査した結果、やっぱり叱るところは叱るというのもいいですね(笑)。

◇第4回後編「内田舞×内田也哉子が語る「ちょっとした事件」スマホに熱中する子どもに親ができること」では、欧米でも今規制などが始まっている子どもとスマホ、SNSなどの問題についてお伝えする。