井之脇海が明かした新之助が最期に笑顔で逝けた理由。「横浜流星さんはとにかくストイック。10年前のワークショップの時点で…」大河ドラマ『べらぼう』インタビュー

江戸のメディア王として、日本のメディア産業、ポップカルチャーの礎を築いた人物“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の生涯を描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』。ドラマ内では浪人・小田新之助がこの世を去りました。平賀源内のもとで蔦重と出会ったのち、松葉屋の女郎・うつせみと夫婦となった新之助でしたが、いずれも非業の死を遂げることに。演じた井之脇海さんにお話をうかがいました。(取材・文:婦人公論.jp編集部 吉岡宏)

* * * * * * *

【写真】井之脇海「少しずつ芯を強くしていく、というのは新之助を演じるうえで意識してきたことでした」

新之助という役を演じきって

浪人から始まり、足抜けをして百姓になって、最後には打ちこわしを先導する革命戦士に。それこそ1年2ヶ月ほど新之助を演じてきて、今は達成感がかなり大きいです。

クランクアップは新之助が亡くなるシーンでした。ですので、演じながら「これで終わり」という思いを一層強く覚えました。

ドラマ内でも意次が言っていましたが、この時代の武士は実際に戦ったことがない。それでいて新之助は体より頭が先に働くような性格。足抜けのあと、武士の意地だけで切腹できなかったのも、刀を突き刺したあとの痛みを先に考えてしまったからだと思います。

そんな彼が最後、全てを取っ払い、蔦重という友人を守るために命を落とす。それは新之助の成長が垣間見えたようで、演じていてうれしかったです。

最期の場面について

死んでしまうのに「うれしかった」と言うのも変ですが、それこそ打ちこわしそのものより、彼の大義を果たして死ねたような気がしていて、新之助も思い残すことなく逝けたんじゃないでしょうか。

たとえば最初の足抜けで「うつせみを守りたい」といった思いはありましたが、それでもある意味<逃げ>じゃないですか?

もともと浪人になって平賀源内先生のところに転がり込んだのも、武家の三男に生まれて、家督争いから逃げたため。足抜けした先でも浅間山の噴火をきっかけに流民となり江戸へ。

ずっと逃げてきた彼が、最後は逃げずに世の中に向きあおうと決意した。

きれいな成長曲線を描いて、というわけではないんですが、少しずつ芯を強くしていく、というのは新之助を演じるうえで意識してきたことでした。

笑顔で逝けた理由

新之助が笑顔で亡くなることができたのも、どこか満足感というか、多幸感のようなものがあったのかもしれません。それこそ、新之助自身気づいていないかもしれないけれど、蔦重を守ることができたのが、心の底から嬉しかったんじゃないかな。

あらかじめ演出からも「わかりやすい笑顔はしなくていい」と言われていたので、思いがにじみ出ているような表情になったらいいな、と考えて演じました。

これでおふくととよ坊のもとへ胸を張って逝ける、という思いを込めての、あの表情でした。

話はそれますが、実はこれまでドラマや映画の中で死ぬ役を演じたことがなくて…。

何かを想像したり、心に思ったりしただけで、どうしても表情が動いてしまう。顔を固める演技というのはなかなか難しい、とあらためて思いました。

蔦重と横浜流星

新之助にとっての蔦重は一言でいえば、親友ですね。新之助の年齢設定はないんですが、僕は蔦重と同世代と考えて演じていました。

新之助はずっと孤独だったはず。

武家を破門されて浪人になって、源内先生のもとに転がり込みますが、先生は目上の方ですし、本音を話せるわけではない。そんな中で蔦重と出会い、彼が心の支えのような存在になったというか。蔦重は本当にいいやつですし、新之助が果たせないようなことを、次々と叶えてきた憧れのようなものもあったと思います。

そして蔦重を演じる横浜流星さん。あんなにストイックな座長は見たことがありません。

新之助という役を演じきって, 最期の場面について, 笑顔で逝けた理由, ワークショップでのエピソード

(『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』/(c)NHK)

僕もどちらかといえば真面目なほうなので、ブツブツとセリフをそらんじながら、どんな動きをしようか、とスタジオの端で試行錯誤していると、いつの間にか隣に横浜さんがきて、セリフ合わせに付き合ってくれたりして。

主演の彼は、ずっとそのスタンスで続けているわけです。それでいて芝居では、台本に書いていないようなことも組み込みながら、驚くような演技をする。

たとえば、33回でこときれた新之助を、蔦重が抱えて橋の上を運ぼうとするシーンも、台本にはないくだりでした。

僕の体重は65キロぐらいなんですが、こときれていた分、横浜さんに全体重をかけていたのが申し訳なくて。それでも引っ張ってくれた横浜さんのパワーをあらためて感じながら、心の内で、新之助をこんなに思ってくれる人がいたんだな、と素直に感動していました。

ワークショップでのエピソード

最後には、蔦重と歌麿が新之助の墓の前で、はなむけの言葉のようなやりとりがあるわけですが、あの場面は収録しているところを実際に楽屋から見ていて。

いい顔だった、今までで一番男前だった、といった蔦重の言葉を聞いて、あらためて新之助が成仏できたというか。悲しくて切ないシーンだけど、とても愛のあるシーンだと強く感じました。

横浜さんとはお互い、学生の頃から役者をやっているので、オーディションで顔を合わせることはありましたが、実際に共演するのは初めてです。

新之助という役を演じきって, 最期の場面について, 笑顔で逝けた理由, ワークショップでのエピソード

(『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』/(c)NHK)

10年位前に、一度演技のワークショップで一緒になったことがあって。お互いまだ20歳前後でしたが、その時も「すごくストイックな人だな」と思いながら、そこでの芝居をうっすらながら覚えていて…。自分の持っているものをしっかりと出せる人、という印象を当時から覚えていました。

とにかく『べらぼう』では、横浜さんに驚かされてばかりでした。

新之助という役を演じきって, 最期の場面について, 笑顔で逝けた理由, ワークショップでのエピソード