年金4万円、1日1000円で心豊かに暮らす75歳。ものはすぐ捨てず、20代の服も現役
現在75歳、エッセイストの小笠原洋子さんは、高齢者向け3DKの賃貸団地にひとり暮らし。ケチでも豊かな暮らしをモットーに、長年「1日の予算1000円」を実践しています。年金額は月4万円。今回、45歳で会社勤めを辞めフリーランスに転身した小笠原さんの仕事遍歴と、ものをムダにせず節約を楽しみながら生きるコツを伺いました。
節約を心から楽しむエッセイスト、小笠原洋子さん
【写真】商品のシールやテープも捨てずに再利用
40代で独立するも「稼げなくてバイトを転々と…」
画廊や美術館勤務を経て、美術エッセイストとして独立された小笠原さん。現在は、以前住んでいた分譲物件を手放し、賃貸団地で1人住まいをされています。フリーランスへの転身は、意外にも早かったと語ります。
「フリーランスになったのは、45歳のときです。会社勤めをしていた頃から、なんとなく組織の中で働き続けられるのは45歳くらいまでかな、と心に決めていたんです。ですから、その年齢になったとき、ごく自然な流れで退職し、独立の道を選びました」(小笠原さん、以下同)
ただ、美術関係の雑誌に寄稿したり、本を出したりするだけではなかなか生活は成り立たなかったそう。
「主な収入源はパートタイマーとしてのアルバイトでしたね。いろいろな場所を転々としながら、65歳で年金をいただくまで働き続けました」
「1日300円」からはじめた節約生活。支出はほとんど食費
小笠原さんといえば、1日1000円、年金4万円で暮らすというライフスタイルが多くのメディアで取り上げられています。若い頃からお金をあまり使わない生活を意識されていたそうですが、そのきっかけは何だったのでしょうか。
「学生時代や独立した当初は、1日の予算を300円からスタートしました。それが徐々に500円、800円と上がり、最終的に1000円で落ち着きました。お札1枚という物理的な分かりやすさもあって、自分の中でしっくりきたんです。もし1日で1000円を超えてしまったら、次の日は使うのを控えるなどして調整しています」
住宅費などを除いて、年金4万円の範囲内で暮らせるように工夫をする小笠原さん。1日の支出のほとんどは食費なのだそう。
「エンゲル係数ほぼ100%です。日用品などは、買うのを少し先に延ばそうとか、いろいろ工夫しながらできますが、食事だけは毎日必要ですから」
ものはすぐ捨てない。ケチ精神から生まれた「ケチカロジー」という生き方
冷蔵庫に貼りつけた商品のシールやテープ類
少ない予算で日々の暮らしを回すためには、「捨てない」ことが重要だと小笠原さんは言います。著書の中では、その考え方を「ケチカロジー」と名付けて紹介しています。
「ケチカロジーというのは、ケチをシステム化する、科学するというようなニュアンスを込めた私の造語です。生活全般に行き届くようなケチ、そしてそのケチが生活を活かせるように工夫することが目的なんです」
例えば、商品についてくるラベルや接着テープ類、輪ゴム、包装紙などは、すぐに捨てずに取っておきます。
「とくにテープ類は、たくさんのものについているので、そのまま捨てるのはもったいない。冷蔵庫の一面をテープ専用のスペースにして貼りつけておくと、再利用がとてもラクなんです。今、飲んでいるこのカフェラテのボトルについているテープも、よく見るととても剥がしやすくて、2度3度使えるくらいの接着力がありますよね」
安価なプラスチックのワインボトルのラベルなど大きくて剥がしやすいものは、細く切って冷蔵庫にペタリ。
「分割していくつにも使えます。たとえばゴミを捨てるときに、薄いビニール袋に入れたゴミを小さく丸めて、取っておいた再利用テープでピッと貼れば、少量でコンパクトにまとまります。習慣になっているので面倒とも感じません」
20代のときの服だって現役選手。ケチでも心豊かに生きる
ファッションもいつもすてきな小笠原さん。20代の頃の服も現役で着こなしているそうですが、長く愛用するための秘訣はあるのでしょうか。
「今日着ているこのビーズのカーディガンも、じつは40歳か、もしかしたらもっと前に買ったものかもしれません。スパンコールなどがついたゴージャスな洋服が流行る前の時代に、こんなにビーズがついた洋服があるんだと驚いて購入した記憶があります」
途中でビーズや刺繍などが流行りだした時期は、あえて着ずに眠らせていましたるのが小笠原さん流。
「今、人気がまた少し下火になってきたので、引っ張り出して着ています。すぐに捨てずに、あえて寝かせてときを待つ。そうやって、また着る日が来たら活用してあげるんです」
ケチ、という言葉からは、どことなく心が狭い印象を抱くもの。しかし小笠原さんの「ケチカロジー」からは、お金やものを惜しむことすら日々の楽しみにつながっているようなエネルギーを感じます。
普段は捨ててしまうようなものにも、再び役割を与えてみることで、日常に新しい発見が生まれるかもしれません。