「いっそ積極的に使ってほしい」退職代行サービスを使われた人事担当者が明かす意外な本音 「第三者が入るほうがスムーズ」「なぜ利用するのか疑問が解けた」

「退職代行」について、人事担当者の受け止め方は?(イメージ)
春先における新卒の退職ネタは、もはや風物詩になりつつある。近年は退職代行サービスを使った新入社員の退職がSNSでの話題として取り上げられることも増え、辞める際に“他人頼み”という姿勢に厳しい声が寄せられることも少なくない。しかし、退職代行を使われた側からは「何も連絡がないよりマシ」「むしろスムーズ」など、ポジティブに受け止める声も出てきている。人事担当者たちの声から、イマドキの退職事情を探った。
「何も連絡なく飛ばれるより、むしろ責任感がある」
「2年前のゴールデンウィーク明け、弊社にもついに退職代行業者から連絡がありました。入社して1か月の新卒社員が退職したいとのこと。せっかく採用できたのに、新人研修などが完全にムダになるわけで、部署の上司が教育係の社員に『厳しすぎたんじゃないか』などと詰めよるような光景もありました」
そう語るのは、食品メーカーで人事を務める40代男性・Aさんだ。退職代行業者からの連絡に、最初はやや戸惑ったというが、現実にこうした退職代行の利用は増えている。マイナビの「退職代行サービスに関する調査レポート(2024年)」(個人800、企業1600サンプル)によると、2024年上半期(2024年1月~6月)に退職代行サービスを利用された経験のある企業は23.2%にのぼる。また退職代行利用による退職者は、2021年は16.3%、2022年は19.5%、2023年は19.9%と、年々増加傾向にある。
Aさんは「人事としては退職代行を使ってくれた方がいいです」と語る。
「連絡がないままに無断欠勤されると、事件事故に巻き込まれていないかとか、病気で倒れていないかなど心配になって、本人への連絡はもちろん実家に連絡するなど、かなりの手間になります。過去には、1人暮らしの新入社員の連絡がつかなくて、直接家に様子を見に行ったこともありますよ。退職代行で辞めてくれる方が断然マシですし、連絡がないまま消えるぐらいなら、いっそ積極的に使ってほしいくらいです」
Aさんは、「うちに限らず、新卒社員が連絡もなく出社しなくなるのは、昔からある話」だとしたうえで、「退職代行は、これまで連絡がつかなくなっていた人が使っているイメージですね。何も連絡なく飛ばれるより、退職代行を使う姿勢は、むしろ責任感があるとも言えるのでは」と話す。
「第三者」が入った方がスムーズだという意見も
退職代行業者という「第三者」が入った方が“楽”だと考える人もいる。IT企業の人事担当者である30代男性・Bさんは、「面倒じゃなくていい」と本音を明かす。
「個人的には第三者が入る方が楽ですね。粛々と退職手続きを進めることができるからです。退職を希望する本人とやりとりすると、何かと連絡が滞ることもありますが、業者を通せばスムーズ。特に貸与物の回収や、会社においてある荷物の引き上げが楽ですね。業者が全部やってくれるので」
Bさんは「もちろん、一度採用した人が挨拶もなく消えていくのは寂しい」と言いつつ、「退職代行を使いたくなる気持ちはわかる」と理解を示す。
「僕が転職組だからこそ、退職代行を使いたくなる気持ちはわかるんです。というのも、会社に『辞めたい』ってなかなか言いにくいし、言ったら言ったで『なぜなのか』に始まり、不満があったのか、次はどこに行くのかなど、社内で会う人たちから質問攻めで、本当に面倒なんです。その点、退職代行業者なら『辞めたい』という意思表示がものすごく簡単ですからね」
次第に存在感を増すようになった退職代行。前出・マイナビの調査では、2023年6月以降の1年間に転職した人で退職代行を利用した人は16.6%。年代別では、20代が18.6%で最多だった。「20代の転職者の約5人に1人」ということになる。
新卒者の利用意向はどうか。NEWONEによる2025年新卒入社者206名を対象とした「退職代行についてのアンケート調査」によると、94.2%が退職代行を認知しており、その利用意向としては25.3%、実に4人に1人が「自分自身も使う可能性がある」と回答している。
代行を使って退職した若手社員にその後会ってみたら…
若い世代の価値観の変化を感じると話すのは、建設会社で長く人事・総務を担当する50代女性・Cさんだ。
「これまでも、会社に顔を見せず、突然退職届を内容証明郵便で送ってくるとか、貸与物を宅配でまとめて送りつけるといった辞め方をする人は少ならからずいたものです。同じことなのに、わざわざ数万円払って退職代行を使うというのが疑問でした」
退職代行各社でサービス内容に違いはあるが、相場は2万~5万円ほど。決して安いとは言えない金額だが、若者がお金を払って退職代行を利用することについて、Cさんなりの答えが出始めているようだ。
「先日、辞める男性若手社員から『退職代行を使います。あとはよろしくお願いします』と連絡があったんです。退職する際の手続きの漏れがなくなるなど、もはや会社の立場も考えた“マナー”として退職代行が選ばれつつあるのかもしれません」(Cさん)
ちなみにCさんはその後、退職した若手社員に会う機会があった。なぜ退職代行を利用したのか疑問だったので率直に聞くと、彼は「送別会とか、辞めるにあたっての挨拶まわりが面倒だった」とあっけらかんと答えたという。
さまざまな賛否はあれど、間違いなく浸透しつつある退職代行。使う側だけでなく使われる会社側にも、意識の変化が起きつつあるようだ。