JRの人気乗車券「青春18きっぷ」の販売数が激減していた…利用者離れを一気に加速させた「ニーズ無視のルール変更」

人気きっぷの利用者離れが始まった

春・夏・冬の休暇シーズンの定番となっているJRの「青春18きっぷ」は、乗車自体を楽しむディープな鉄道ファンのみならず、目的地まで安く移動したい旅行好きなどにも広く愛されてきた。

しかし今、このきっぷに大きな異変が起きている。実は販売数が大きく落ち込んでいるのだ。

今年度の青春18きっぷ関連の幹事社であるJR北海道に問い合わせたところ、2024年度の販売枚数は約42万枚だった。前年度の62万枚から3割以上も減った計算だ(なお、JR6社に対して各社の販売枚数も問い合わせたが、いずれも「非公表」とのことだった)。

人気きっぷの利用者離れが始まった, 青春18きっぷがウケていた理由, 突然の変更に利用者は困惑…, 署名活動にまで発展

JR各社が扱う「青春18きっぷ」の販売数推移/取材を基に作成

青春18きっぷは、2015年度から2018年度にかけて70万枚程度の販売枚数を維持していたが、コロナ禍に突入した2020年度以降大きく数を減らしていた。ただ、未曾有の事態が落ち着いた2023年度には再び持ち直している。

では、人気のきっぷに一体何が起こったのか。

利用者離れを引き起こした最大の要因と考えられるのが、2024年度冬季分の販売から適用された利用条件の大幅な変更だ。

青春18きっぷがウケていた理由

条件変更前の青春18きっぷは、春・夏・冬の休暇シーズンに発売され、期間内の任意の5日間、全国のJR線の普通列車が乗り放題だった。販売価格は1万2050円で、1日あたりの金額は2410円と元を取りやすかった。

さらに、複数人利用を認めていた点も大きな特徴で、2人で2日分を使用して残りを1人で使用できるなど自由度が非常に高かった。

例えば、東京―大阪間を移動しようとした場合、東海道新幹線の「のぞみ」では、1万4720円(通常期指定席)がかかる。青春18きっぷは9時間程度の所要時間がかかるものの、2410円相当で移動が可能だった。1枚の青春18きっぷを2人で使用して大阪―東京間を往復する、あるいは5人で片道使用するといったこともできたのだ。

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ルール変更前の青春18きっぷ/筆者撮影

近年では鉄道系YouTuberの台頭により、青春18きっぷを活用したチャレンジ動画なども多く見られるようになり、中には数十万再生を集め注目されているものもある。女性鉄道ファンが1回分の青春18きっぷを使って限界距離に挑戦する動画はその一例だ。

この動画では、東京駅を早朝に出発し、最終列車で日付が変わる新山口駅までの1048.7kmを18時間以上かけて移動する様子が配信されていた。こうしたYouTuberの影響により青春18きっぷに興味を持ち、鉄道旅行の沼に引きずり込まれていった方も少なくないだろう。

また、全国のJR線が乗り放題になるきっぷが手ごろな価格で手に入るコストパフォーマンスの高さや、「任意の5日間」でも「最大5人」でも使える自由度の高さは、鉄道旅行初心者や移動費を安く済ませたい旅行好きにもウケていた。関連書籍も多く発売されていたこともあり、鉄道旅行の登竜門的な存在となっていた側面もあったと筆者は認識している。

突然の変更に利用者は困惑…

しかし、2024年10月24日、青春18きっぷ愛好者のあいだに衝撃が走る。突如として冬季分から利用条件が大きく変更されることがJR各社から発表されたのだ。

これまで「期間内の任意の5日間」利用できた青春18きっぷは、「連続する5日間または3日間」利用可能なきっぷへとリニューアルされ、従来の販売価格と同じ1万2050円の「連続する5日間用」のきっぷに加え、1万円の「連続する3日間用」のきっぷが新設された。さらに、複数人利用はできなくなった。

この利用条件の変更についてメディアに問われたJR東日本は、「時代や駅の体制などの変化に対応するのが狙いで、自動改札機を通せるようにリニューアルした」と回答。

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photo by Gettyimages

一方、利用日が「連続」する形になったことについては、「自動改札機では利用日の間隔が空くと判定できないため連続するものにする必要があった」「切符を分割して利用する人が多く、ニーズに沿えるよう5日間用に加えて3日間用も用意した」と説明している。

しかし、この予想外の変革を巡っては、SNSを中心に利用者から戸惑いの声が多く上がった。

青春18きっぷの利用条件の変更を発表したJR東日本の公式X(旧ツイッター)には、「改悪だ!」「家族やグループで利用できなくなった。これ以上鉄道需要を減らしてどうするのか」「自動改札利用を可能にするならバラきっぷでいいじゃないか。現代社会ではそんな簡単に連休を取れない」など、厳しい意見が殺到した。

ちなみに、「5日間用」の青春18きっぷを使おうとした場合は、連続した5日間の時間の確保に加えて、4泊分の宿泊費も必要になる。若者世代に大きな出費を強いることから、「これができるのは青春世代ではなく定年退職した老人世代。青春18きっぷではなく老後満喫70きっぷの名称のほうがふさわしいのではないか」という意見も見られた。

署名活動にまで発展

そして、変更を発表した日の夜からは、「JR旅客6社に対し、青春18きっぷを従来の制度に戻すように要望する」オンライン署名活動も始まった。署名活動は、SNSを中心に広く拡散され、新聞やテレビでも大きく報道される事態となった。

このオンライン署名を立ち上げた会社員の坂井啓一さんは当時、次のような思いを語っている。

「JR各社もさまざまな事情があるので、今後も従来の価格・制度のまま青春18きっぷを維持できるとは思っていない。しかし、今回のような大きな改悪は長年の利用者の離反を招くもので、何かをしなければと思い行動に移した。

まずは混乱を収めるためにもいったん従来の制度に戻すか、本質を損なわない形の改善が必要でないか。物価上昇に応じた値上げ、電子チケット化による使用回数のカウントなど、18きっぷを維持する方法は他にもあるはずだ」

この署名活動は12月2日までに3万3946筆を集めて終了した。

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photo by Gettyimages

しかし、12月5日になり、坂井さんはJR東日本から「直接ご提出いただく窓口の用意がございません」として、署名の受け取りを拒否されたことを公表した。

署名サイトには、JR東日本の対応に対する落胆の声も多く寄せられ、坂井さんも「高輪ゲートウェイ駅名撤回運動、米坂線復旧活動、京葉線快速存続活動など、芸能人、地域住民、議員からの署名は受け取られるようだが、私どものような一般人へは塩対応のようだ」と困惑気味だった。

つづく記事〈実際に使ってみたらJR「青春18きっぷ」の販売数激減の理由がわかった…人気乗車券を買い支えていた大量の旅行好きが失望「許せない改悪」〉では、新ルールの青春18きっぷを実際に利用した筆者が使い勝手の悪さを詳しく解説する。